D3Pオトメ部
2024.04.19 Fri 12:00
『DesperaDrops/デスペラドロップス』制作秘話 第四回「風景」
※本記事は Nintendo Switch『DesperaDrops/デスペラドロップス』のネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。
※制作秘話含むデスペラ関連記事はこちら
こんにちは、デスペラドロップスのディレクター、森田です。
前回はスペシャルゲストとして吉村りりかさんをお迎えしたこのブログですが、今回はまた森田の一人語りに戻ります。
ということで今回はノベルゲームに必要不可欠な要素でありつつも、あまりスポットが当たることのない不遇な存在……そう『風景(背景)』についてご紹介しようと思います。
若干……というかかなり地味目なテーマなので、デスペラをプレイしてくれた方が、どれくらい興味があるのかは謎なのですが、このブログを読んでくれている時点でそれなりの猛者であるとお見受けしますので、騙されたと思って最後までお付き合いいただければ幸いです。
後半には本邦初公開となる小ネタもありますし、テーマ的にいつもみたいに無駄に長くならないと思いますので、お互いに頑張って最後まで辿り着きましょう!
デスペラはヨーロッパ各地を転々と逃亡するというコンセプトだったので、まずはどんな街に逃亡するのかを最初に考えることになります。
とは言っても、キャラクターの設定を作った時にそれぞれの出身地は決めていたので、物語のどこかのタイミングでそれらの街には絶対に行かせたいとは考えていました。
アッシュの故郷であるスイスの『バーデン』
ハミエルの故郷であるスペインの『ブラナス』
ジブの故郷であるドイツの『ローテンブルク』
ラミーの故郷であるフランスの『アヌシー』
カミュの故郷であるオーストリアの『ハルシュタット』
サリィの故郷であるイタリアの『キウーザ』
どの街も特色がある街並みでとても美しい場所です(行ったことないですけど)。
出来ることなら行ってみたい。それが無理ならせめてゲームの中ででも……というのもデスペラのコンセプトの一つですからね。
とはいえ、逃亡者がそう易々と故郷に戻れるほど甘くはないでしょうから、それらの街が登場するのはそれぞれの個別ルートに入ってからとなるので、それまではヨーロッパ各地を転々としていくことになります。
今さらながらゲームに登場する主な都市を一覧する画像を作ってみました。
白い円はミラノを中心として半径100kmの距離を示しています。
また、地図上のゴチャゴチャした線は、主な道路や高速道路などを現していますので、どんなルートで逃亡していたのか想像してみるのも面白いかもしれません。
こういう資料って開発中にこそ必要だったのでは? という気もするのですが……そんな余裕があったためしはありません(もちろん、もうちょっと簡単な地図は作りましたけど)。今回せっかく作ったので、聖地巡礼をなさる際のお供にでもしてもらえれば嬉しいですね。
でも、こうして改めて地図にまとめてみると意外と狭い範囲に感じてしまいます。まぁ狭いと言っても右下辺りの『ローマ』から中央付近の『ミラノ』まででも、直線距離で500km弱ありますからそれなりの大移動なのですけどね。日本だと栃木県の『日光東照宮』から和歌山県の『紀州東照宮」くらいの距離ですから、かなり離れていますよね。
もっとも、高速道路が発達しているヨーロッパでは500kmという距離が、日本での感覚とはちょっと違うと思いますので、本場の方がこの逃亡劇を見たら「ご近所じゃナイデスカー」と思うかもしれませんけど。
確かに逃亡者が移動した範囲としては少し控えめかもしれませんが、おそらく途中で立ち寄った街でのまったりとしたランチや、川や湖を見つけては遊んだりしていて、思ったほど遠くまで逃げられなかった……ということなのでしょう。シリアスでサスペンスフルな逃亡劇のハズだったのに、おかしいですね。
さて。最終的にはヨーロッパ各地を逃亡するとしても、物語の始まりはなるべく分かりやすい(みんなが知っている)場所にしたかったので、ややベタではありますがイタリアの『ローマ』に決定です。
だってゲームの序盤って、見知らぬ登場人物や状況説明といった初めての情報が怒濤の勢いで押し寄せてくるじゃないですか。だから少しでも説明することを少なくして物語にすんなり入り込んでもらいたいんですよね。
その点、イタリアのローマって言われたら、細々と説明をしなくても「ああ、ローマなのね」ってなりますよね。知っているつもりになれる。それが大事です。
これが同じ大都市である『トリノ』や『パレルモ』と言われると、もちろん名前は知っていますが、地図上のどこにあるのか……少なくとも僕にはお手上げです。もっとも僕が地理に疎いだけ、というのはあるのですけどね。
そんな地理音痴の僕でも知っているつもりになれるローマであれば、ユーザーさんもどんな街なのかイメージをし易しそうですし、ローマで休日を過ごす有名な映画のおかげで、なんとなくの風景を思い浮かべることも出来ますからね。
それに『すべての道はローマに通ず』という言葉が示す通り、彼らが出会い、逃亡劇の始まりとなる街としては意味的にもふさわしいかな、と思ったりして。一応、シナリオ的にもローマという土地にそれなりの意味は持たせているつもりですし。
……と言いつつ、実際は『護送車』の中からスタートしちゃうんですよね、このゲーム。
結局は状況説明をしちゃっているのですけど、まぁ護送車ですし。それに状況を説明したくてもどんな状況なのか誰も分かっていないという状況ですからね。
とはいえ、しばらくは護送車の中や夜の高速道路といった暗いシーンが続くので、ユーザーさんが「私はいったいなんのゲームをしているのだろう?」と我に返ったりしないように、回想形式でローマの風景を見せて「ほら、ローマだよ。ヨーロッパが舞台だよ」と正気に戻ってもらおうという配慮も万全です。
ローマをスタート地点にするのは良いとして、そこから先、どんな街を登場させようかと地図と睨めっこです。
今回は、日本人(というか僕の主観ですが)の感覚としてメジャーな場所だけでなく『穴場的』な街を登場させたいなと考えていました。僕が勝手に穴場だと思っているだけで、普通に有名な街ばかりなのかもしれませんが、少なくとも僕が「行ってみたい!」と思える場所をチョイスしています。
「行ってみたい!」と言うとなんかワガママなディレクターな感じですけど、「へえ、こういう街もあるんだ。行ってみたい」という感覚をユーザーさんと共有したい、と言うのが正しいですね。間違っても「あわよくば取材と称して行ってやるぜ」なんて邪な気持ちがあった訳ではありません。
穴場と言いつつ、序盤で『ミラノ』というイタリアでもローマに次いで2番目に人口の多い大都市が出てきますけど、逃亡者の心理的に大都市に身を隠すというのは自然だとは思うのでこれは仕方なしです。
そしてそこから先は地図を頼りに『どっちへ逃げるか?』と、逃亡者の気持ちになりながら、森田自身も逃亡開始です。だから、シナリオ構成を頭から考えながら、そのお話の流れに身を任せて行き先を決めています。そう考えるとゲーム作りは『旅』ですね。
実は恥ずかしながら、僕はデスペラを作るまで『アルトドルフ』とか『トゥーン』とか『バーゼル』といった街のことをほとんど何も知りませんでした。名前を聞いたことがあるかも? くらいの知識です。でも最近は、ニュース(ほとんど見ないけど)や、読んでいる小説の中などにそれらの街の名前が出てくると「あ、知ってる、知ってる。行ったことある(行ってはいない)」と内心ドヤっています。そんな優越感をみなさんも味わってくれたら嬉しいのですが、よく考えるとなんかちっぽけな優越感ですね(中学生の地理くらいの知識でもドヤれる森田の小物感……)。
さて、逃亡先が決まってくると、それを絵的に表現するための『背景』が必要になります。ノベルゲームにおいてキャラクターやシナリオっていうのはもちろん手が抜けないポイントなのですが、背景っていうのは物語の引き立て役的な位置づけで、場合によっては一つの背景を別のシーンで流用したとしても『シナリオさえ面白ければ目をつぶってもらえるんじゃないだろうか?』と、思わず甘えた考えが頭をよぎる部分でもあります。おそらく作り手としての姿勢が試されているのでしょう。
なんと言ってもノベルゲームの主役はキャラクターですからね。背景がいくら豊富だからってユーザーさんが喜んでくれるという訳でもない。……という考えがあるのかどうかは知りませんが、どうしても背景っていうのは他のパートに比べて優先度が低くなりがちな不遇のポジションなのです。
が、しかし!
今回は『ヨーロッパ各地を逃亡する』『ロードムービーのようなストーリー』と企画立ち上げ時に大々的に謳っているのですから、どこの国へ逃亡しても同じ街並みって訳にはいきません。あるいはどの国へ行っても同じような田園風景ばかりで街から街へ逃亡している気分がゼロだったりしたら……なんか、コンセプト詐欺っぽいじゃないですか。
いくらコザキさんがかっこいいキャラをデザインし、吉村さんが面白いシナリオを書いてくれようが、あまりにも背景が変化しないとそれが気になってしまって、キャラやお話にまでネガティブな反応が向けられないとも限らないですからね。足を引っ張るわけにはいきません。マジで。
ということで、プロジェクト立ち上げ時にスタッフに向かって「今回、背景は流用しないぞ!」と後先考えずに堂々と宣言。いや、まぁ、流用しないのが基本なので、偉そうに宣言することでもないんですけどね。
しかし、それが甘かった。企画当初から、今回は『そこそこ』背景が多いだろうなとは予想していたのですが、蓋を開けてみれば『そこそこ』どころじゃありませんでした。『そこそこそこそこそこ』くらいはあったと思います。誰だよ、このシナリオ構成したの? って心の内戦が勃発しかけました。
だって、デスペラのコンセプトである『逃亡劇』という状況を思いついた時には、『逃亡中で立ち寄った街で束の間の日常を過ごし、その街での生活や、そこに住む人々に愛着を持ち始めた頃に、追われるように逃げださないといけない』という状況って「なんか切なくて良いな」などと呑気に思っていましたからね。でも、実際に作ってみて分かりました。逃亡生活は、マジで辛いということが。逃亡するには金やバイクだけじゃなくて背景も必要なんです!
お前らどうしてあちこちに移動するんだよ、もっとじっとしていろよ。と思いつつも、逃亡者が逃亡しないと逃亡劇になりませんから文句も言えません。
中には本当にただ通過するだけの街とかもありますからね。
例えば、序盤に登場する街『ピアチェンツァ』とか、通り過ぎたらもう出てきません。シナリオの後半で再登場させても良いかなと思っていたのですが、誰もそっちに逃げてくれなかった……。素敵な街なんですけどね。でもまぁ、逃亡者としては正しい判断です。
僕が有能なディレクターだったら、登場頻度が少ない背景なら用意しないで表現する方法をとれたかもしれませんが、森田はそこまで頭が回らないので、ここはもちろん力技です。「背景が必要なら用意すれば良いじゃない?」と湯水のごとく背景を使います。
さらにピアチェンツァの『大聖堂』なんて、ジブにサイドカーを運転してもらわない限り、一生見ることのない背景ですからね。
しかしここはまだゲームの序盤。次々に風景が流れ去っていくという逃亡劇を演出するためには手を抜けないポイントなのです。
実は吉村さんからは「背景を沢山用意するのは大変でしょうから、ある程度は流用できる想定でシナリオを書いたほうが良いですよね?」と言ってもらったのですが「そんなの気にしないでください! 背景はなんとかしますから、お話が面白くなるのを優先でOKです!」なんてカッコつけて言ってしまった若き日の僕……。
しかもシナリオも後半になってくると、そのワンシーンにだけ、それもほんの一瞬しか出てこないような背景も必要だったりするので「ここは〇〇の背景を流用してくださって構いません」みたいな、ご丁寧な注釈を吉村さんがつけてくれていたりしたのですが、そんなことを言われたら逆に作るしか無いだろう、と。
ゲームの背景っていうのは、基本的にグラフィックを制作してくださる会社さんに発注します。もちろんデスペラも最初はそうしていました。
しかし、どう考えても企画当初に想定していた背景の数では、ぜんぜん足りないし、このまま湯水のごとく背景を消費していてはいくらお金があっても足りない! ……と、他社さんのブログで、ユーザーさんに向かってお金の話をするのはどうかと思いますが。これは切実な問題なのです。
かといって逃亡先を減らしたら本末転倒ですし、どうしたものだろう?
このままじゃ背景が足りなくなる……ええい、足りないなら捏造するしかない!
捏造というと響きが悪いですが、要するに自作です。DIYです。
まぁ、自分で作るのが僕の仕事なので、DIYの使い方を間違っていますけどね。
元々、今回のプロジェクトでは「いくつかは自分でも背景を作ってみようかなぁ。挑戦しちゃおうかなぁ」などと呑気に考えていたのですが、結局、いくつかじゃ間に合わなかったです。
開発中は『とにかく必要な背景をどんどん作る』という作業に追われていたので、実際にデスペラでは全部でどれくらいの背景があるのかというと……およそ180シーン程あるみたいです(今、数えた)。
背景には当然ですが管理するための『番号』が付けられているのですけど、途中で増えたり、あるいは作らなくなった背景があったりするので、通し番号の最後の番号が必ずしもシーンの数って訳じゃないんですよね。実際、泣く泣くいくつかの背景をカットしましたし……悔しい。
ちなみにこの場合のシーンっていうのは『隠れ家リビング』とか『スペイン広場』みたいなゲーム内で背景の絵が変わる箇所の事です。それが180箇所……あれ、思ったほど多くなかったかも? と思っちゃいました。シナリオの内容を考えると……ですが。でも、それに昼夜などの時間差分があるので、実際の背景の数はその2倍くらいはなるんですけど。
この180シーンという数が多いのか少ないのかは微妙なところですが、少なくとも僕が以前作った一般向けのノベルゲーム(シナリオが無闇に長くて、ユーザーさんの気力と体力を奪った問題児)の3倍の数でした。やっぱ、それなりにボリュームあるかも……。
逃亡生活と、そしてなによりもヨーロッパの広大さを舐めていました。
で、最終的に森田がどれくらいの数の背景をDIYしたかというと……結局150シーンくらい作りました。正直、いくつか足りない分を作ったというレベルじゃありません! むしろ、いくつか足りない分を画像制作会社さんに作ってもらったと言うのが正しい気がします……。なんでこうなった? もちろん僕の見積もりの甘さが原因です。あと、途中から背景を作るのが楽しくなってしまった……というのもあります。
もちろん、プロの方が作画してくださった背景と、森田が作った背景とでは、明かにクオリティに差があるのは自分で分かっているのですが、今回は、とにかく場面が変わったら背景もちゃんと変わるという、実に普通の事を優先させたかったので、その辺りは目をつぶって頂けると……(これも、ユーザーさんに堂々と言う事じゃ無いですけどね!)
最終的には、スタッフに「背景は流用しない!」と宣言したにも関わらず、一部、流用してしまったのは森田の計画の甘さ故です。というか体力の限界です。ごめんなさい。
あと、ゲーム発売後にもパッチを当てる毎に、少しずつ背景を追加したり、クオリティを上げたりと姑息なことをしてしまった事もここに告白します。
今回、背景をDIYするにあたって、当然ですが僕は絵を描ける人間では無いので、文明の利器である3Dソフトを使用しました。Blenderというソフトです。もちろん使うのは初めてだったので、最初は使い方を覚えるところからとなります。まぁ、よく考えたらそれってプロジェクトが始まってからやることじゃないですけどね。
しかも、今回のような背景を作るのは初挑戦なので、完成するのかどうか不安要素しかなかったのですけど、でもまぁ、こういうのはいきなり実戦の方が身に付きます。人間、追い詰められたらどうにかするしかありませんからね。
ちなみに最初にお試しで作ったのはローマの『テルミニ駅前』でした。いきなり序盤の背景で恐縮なのですが、この背景ってほぼプロローグにしか登場しない予定だったので、使用頻度から考えるとDIYした方がコスパ良いかな、と思ってしまって……。
でも、これくらいあっさりとしたレイアウトであるにも関わらず、初めて作ったのでそれなりに時間がかかってしまい、最終的にはそんなにコスパ良くなかった気もしますが……。
あと、最初に作った背景だけあって、今見ると色々と気になる所がありますね。
そして次に挑戦したのが同じくローマの『スペイン広場』です。ここも主にプロローグでの登場がメインなんですよね。「なんでプロローグだけなんだろう?」って思ったけれど、ローマを逃亡劇の始まりの場所にしたのだから、そりゃ、そう簡単にはローマに戻ってこられないよな……という事実に気づいたのはこのブログを書きながらです。
とは言え、スペイン広場は絶対に出したかったので用意しないという選択肢はありません。となればDIYしかありません。カメラに映らない部分は基本的に作らないので、階段の周辺はスカスカで建物も必要最低限のみ。建物の裏も当然ですが真っ白……。こういう舞台裏をお見せするのってどうなのかなと思いますが、僕は3Dグラフィックのプロじゃないので、何も恥ずかしくない!
でも、この背景は作っていてなんか楽しかったんですよね。実際の階段の段数とか、地上から最上部までの高低差とかを調べて、なるべく現実の風景と同じに見えるように階段の高さも合わせて……なんて得意そうに言っていますけど、このブログを書いている今、痛恨のミスを発見しちゃいました!
スペイン階段は135段のはずなのに、134段しかないのです……なぜだ? 怖い。何かのバグ? 怪談?
……なんて思って、改めて数えてみたら、中腹あたりの広場っぽい所に上がるための階段が本当は12段のはずなのに11段しかなかった! ……ということで、デスペラの世界のスペイン階段は134段という事になってしまいました。まぁ、ゲームの画面ではちゃんと見えないからどうでもいい部分なんですけど、なんかすごいガッカリです。
そんな細かいミスは置いておいて、どうせ3Dで作るのだから、階段の中腹あたりに移動した差分も作って……なんて思っていたんですよね、当初は。でも、そうするとカメラに映る範囲も変わってしまうから、建物の背面とか屋根とか作ってない部分が沢山あるので、流石にそれは無理だろうと断念しました。だって建物の後ろとかノッペラボウですし。
本当は、プロローグで各キャラクターとすれ違うシーンは、主人公が階段を登って移動しているように背景が次々に切り替わっていく演出をしたかったんですけど……無念。
でも、今さらながら試してみましょう。
ということで、カメラの位置だけ変えてプロローグのシーンをセルフリメイクしてみました。
ナンパしてくるハミエル……というか、帽子の男性さん。
ここはスペイン階段の中腹辺り。背景の建物や街並みがちょっと(いやかなり)寂しいかもしれないけど、青空が広いのは良いかもしれない。
せっかくなのでもうちょっと移動してみて……。
ジブさん……というか大柄な男性とゴッツン。
あれ。ちょっと変な所(作りが適当な所)はあるけど、もうちょっとがんばったら何とかなったんじゃね? って思ってしまったのは内緒です。まぁ、初期に作った背景なので、今見ると自分でも気になる所はてんこ盛りなんですけどね……。
それから今回、背景を作るにあたって気を付けたポイントとしては、全ての背景の『アイレベル』を合わせるということでした。アイレベルって興味のない人には「何のこと?」ってキョトンかもしれませんが、要するに背景を映している『カメラ』の高さです。写真を撮る時にカメラ(スマホ)を構える高さだと思ってください。
これを全ての背景で同じにしておかないと、背景によってはキャラクターが大きく見えすぎたり、小さく見えすぎたりと、おかしなことになってしまうんですよね。基本的にキャラクターの立ち絵が表示される位置は変わらないので、背景のアイレベルが変わってしまうと、「あれ、アッシュってこんなに小さかったっけ? それともこの部屋が広すぎるの?」というトリックアート状態になりかねません。まぁ、そこまで気にしてプレイする人はあまりいないと思いますが、アイレベルが揃っているのに越したことはありませんからね。
そして今回はこのアイレベルを、主人公のおおよその目の高さとなる『150cm』に設定しています(護送車の車内のように、明らかに座っている体勢で頭の位置が低くなる場合はこの限りではありませんけど)。
つまりデスペラのADV画面っていうのは、基本的には主人公の目線で見ている風景っていうことなんですよね。まぁ、普通のADVゲームはそうなので偉そうに言う事じゃないですけど。
で、この背景のアイレベルを揃えておくと何が便利かと言うと、色々な背景で、キャラクターの立ち絵の大きさを変えて、簡単に奥行きのある画面が作れるんです。デスペラは7人で行動することが多いので、画面上に複数のキャラがいるのが当たり前ですから、キャラの奥行に差をつけて立たせることで『その空間にみんながちゃんといる』という雰囲気を少しでも演出できれば……ということで、スクリプトチームには頑張ってもらいました!
はい。デスペラではおなじみの『みんな思い思いの所に立つ』の図です。背景のアイレベルと立ち絵の大きさをちゃんと設定しておけば、この図のラミーくんのように扉の近くに立たせても自然に見えるようになっています。たぶん。
で、同じキャラクターの配置で背景だけ変えると……。
こうなります。家具の大きさも実寸で作っているのでキャラクターとの比率もそんなに違和感がないはず……たぶん。
まぁ、実際のゲーム画面にはメッセージウィンドウがあって下の方が隠れてしまいますし、キャラの身長差も激しいので、あまり厳密にしてしまうと、アップになったらジブさんの顔が映らない、という状況になってしまうので、その辺りはあくまで不自然にならない程度に調整はしていますけどね。
でも、リアルに考えれば、主人公の目の前にジブが立ったら胸元しか見えないはずなので、そういう演出も面白いかもしれないですね……まぁ、お顔、見たいですから需要の無い演出だとは思いますが。
どうしてもノベルゲームは背景と立ち絵で構成されるという性質上、単調な画面になりがちなのですけど、僕は他にも面白い表現方法があるんじゃないかなぁと思っているので、日々、模索しているといったところですね。なんだかんだとノベルゲームを作るのは好きなので。
それから、デスペラの背景で地味に大変だったのが(ゲームを作る仕事をやらせてもらっているのに、ユーザーさんに向けて、○○が大変だったとか言うのは好きじゃ無いんですけど、これだけは言いたい!)、ミッションパートなのです。
あれって画面を6分割しているということは、1つのミッションに対して、背景が6枚必要な訳でして……もちろんシナリオ中でも使用する背景もいくつかはありますが、基本的にはミッションでしか使わない背景ばかり。
しかも頑張って用意しても、せいぜい画面の6分の1のサイズでしか表示されないのでちょっと寂しかったりして……。
まぁ、背景って作っている時は楽しいから良いんですけど、社内のスタッフは「なんでうちのディレクターはいつも背景を作っているのだろう?」と思っていた事でしょう……。一般的にディレクターの仕事に背景制作は含まれていないと思うので、彼らが間違ったディレクターに育たないことを祈ります。
ミッションと言えば、自分でも「ちょっと分かりにくいかなー」と思っていたのが共通ルート後半にある『博物館』の中なんですよね。一体それぞれの部屋がどう繋がっているのか? なんですけど。
図にしてもちょっと分かりにくいかもしれないですけど……こんな感じでした。
中央の中庭でそれぞれの部屋が繋がっているのですけど、6画面分割にしちゃうとちょっと繋がりが分かりにくくなってしまうんですよね。
なるべく『作り手だけが分かっている』みたいな状況にならないように、床の色を『赤』『白』『緑』のイタリアンなカラーにして、色だけで認識できるようにはしたつもりなのですが『○○へ逃げて』という指示を出すのが分かりにくいかな……とは思っていたんですよね。
かといって、地図を出してしまうと、それはそれで無駄に複雑そうに見えてしまうのも嫌だったので苦肉の策です。
あと、こうして見れば表に停めたカブリオレから白のギャラリーまでが『一直線』で繋がっているのが良く分かるんですが、その辺りももうちょっとうまく表現できたら、ジブの凄さがより際立ったのかなぁ、とは思います。
実は最初は逃走経路として2階を使おうと考えていたんですが、三次元的なマップになってしまうと、もう訳が分からないだろうと思って(森田自身も)そこはカットしました。エントランスに階段があるのはその名残です……。
実は学生時代は建築士になろうと、そっち系の学校に行っていたので、その頃の経験が今こそ火を吹いて学費が無駄にならなかったぞ! ……と思いたいところだったのですが、僕が勉強していた頃はまだ紙に定規と鉛筆で図面を描く時代で、PCを使った製図や3Dなんて勉強していませんから、ほとんど何も役に立っていません。しかも中退してこの仕事を始めているから知識的には普通の人と同じかそれ以下というレベル。
せいぜい「壁の厚さはこれくらいかな」という程度のぼんやりとした感覚がある程度ですが、そもそも今回はヨーロッパの建築なので、その辺りの基準も正直言って怪しいところ。今頃になって色々と勉強することになったりして……。「お城の壁の厚さってどれくらいなの?」とか、普通に建築の勉強をしていても教わらないような知識とかが必要にもなり……悪戦苦闘することに。結局、必要に迫られた時にする勉強に勝る物なし、なんですよね。あと、あのまま建築士になっていても美術館を建てることなんてなかったでしょうから、今の方が恵まれていますね。
もちろん、どんなに頑張っても僕(素人)には作れない背景はあります(というか沢山あります)。中でも大自然的な風景とかは、普通に絵が描けないとお手上げです。そういう部分はプロにお任せして、僕はもっぱら建物の室内とか街中といった人工的な背景をメインに作りました。要するに面倒そうな背景はプロに任せた、ということです。これを適材適所と言います。
ちなみにゲームをプロローグから始めて、一番はじめにプロが描いた『本物』の背景が登場するのは第二章に入ってから登場するミラノの『ガレリア』です(あれだけ複雑な背景を3Dで作れるなら、たぶんこの仕事してないと思うので)。そこまでは実は全部、素人(僕)が作った背景が使用されているので……なんか、騙したみたいでゴメン。
……っていうか、今回も全然短くないですよね? このブログ。疲れたらこの辺でお休みにして、また明日にでも続きを読んでくれていいですからね。
お休みと言えば、デスペラは逃亡生活なので、ホテルやドミトリーと言った『身を隠す場所』がやたらと出てきますよね。それもこのゲームの特徴になっていると思うので、どの街に行っても同じという訳にはいかないので、極力、流用しないように背景を用意していますが……いや、言い訳はやめておきます。
最初に『身を隠す場所』となる『隠れ家』は序盤の拠点でもあり、物語的にも重要な場所となる予定だったので、割と真面目に全体の構造を考えて作りました。
ゲームをプレイするのにはあまり関係ないのですが『実際にどの扉がどこに繋がっているのか?』といったことも、ある程度は考えておかないと、後々になって謎の構造の建物になってしまいかねないので複数の部屋がある建物を作る時は注意が必要です。
ということで、ここで隠れ家の全貌を本邦初公開です!
偉そうに全貌とか言っていますが、ご多分に漏れず画面に映らない部分は思いっきり手を抜いていますのでご了承ください。でも3Dで作ってあるとこういう時に便利ですね。
あの隠れ家、実際にはこんな構造になっていました。
寝室が二階にあるという都合上、やや見にくい図になってしまっていますが、そこは想像力を膨らまして見てもらえれば助かります。実際には階段を上がると二階の廊下があって、その先に寝室があるという構造になっています(流石に出てくる予定のない二階の廊下までは作ってないのですけどね)。
階段の横にあるのは『バスルーム(兼トイレ)』と『納戸』のような部屋です。この辺りもさすがにゲームに出てこないので間取り上用意しているだけですけど。
ちなみに、イタリアのやや上流な邸宅の構成要素は『玄関ホール』『広間』『食堂』『キッチン』『トイレ/浴室』『主寝室』『客間』『バルコニー/テラス』『納戸』といった感じが一般的らしいので、この隠れ家にも一通りは揃っています。
上の全体図だと寝室のある位置の一階部分が隠れちゃっていて見えないですけど、その部分はこの家の『持ち主』が使っていた部屋になっている想定です。書斎兼私室みたいな感じになっていたのではないかなー、と考えていますがさすがにそこはまだ作っていませんし、気が変わるかもしれません。
こうして全体図で見ると、家の中からそのままガレージに繋がっているのは、日本人的感覚からするとちょっと面白いですよね。もしかしたら今どきはそういう家が日本でも珍しくないのかもしれないですが、田舎者の僕としては『車は庭に置いておくもの』というイメージが強くあるので、屋内に直結だと便利そうな反面、排気ガスが気になってしまいます。一応、廊下への扉を二重扉にして排気ガス対策をしてみましたが、そもそもゲーム画面には映っていない部分なのでどうでも良いところなんですけどね……。
ということで、せっかくなので隠れ家ツアーでもしてみましょう。
まずはおなじみのリビング。
不揃いのソファや椅子、ミッドセンチュリーを意識した家具や家電を配置していて、全体的にレトロチックです。レトロといえば聞こえは良いですが、僕が設定すると勝手に古臭くなってしまうのは仕様です。それにしたってテレビなんてどう見ても古いブラウン管タイプだし、現在の番組を見るために外付けのチューナーが必要とか、使い勝手は悪そうです。あと、テレビが小さいのでみんなで見るには明らかに不向きですよね。
割と重々しい空気のプロローグを経て到着する場所なので、ホッと一息つけるように全体的に少し明るめの雰囲気にしています。まぁ、そうは言っても普通に不法侵入なので、ホッと一息って訳にもいかないんですけど……。
壁紙が黄色っていうのは、明るすぎて逆に落ち着かなそうな気もしますが、陽気なイタリアっぽさがあって、それはそれでアリかなと思っています。
日本では馴染みのない『暖炉』と『マントルピース』があるのが外国っぽいですね。きっと冬は暖炉で薪を燃やして暖かいことでしょう。
続いてはキッチン部分です。
ゲームではリビングの向こうにちょこっと見えるだけなのですが、実は結構広いです。この背景では映っていないですけど、リビングとの境目部分がカウンターテーブルになっているので、本当はそこで食事をする想定です。
このキッチンはアイランド型になっているので使い勝手は良さそうですし、これなら大人数の食事を用意するのにも問題ないでしょう。
キッチンに洗濯機があるのがなんだか外国(イタリア)っぽい? と思っていたのですけど、どうやらキッチンに洗濯機を置くのって都市部の古い建造物(集合住宅)の場合が多いらしくて、郊外にある一軒家では必ずしもそうじゃないらしいのですが、なんか雰囲気重視ってやつです。
廊下から繋がっているガレージです。カブリオレとバイクが停まっています。いつもシートが掛かっているのは……察してください。見えない所は作らない、のお手本です。
ガレージから車やバイクを出し入れする正面の扉は明らかに手動っぽいので、お出かけの際はちょっと面倒かもしれませんね。
それにしても、ここにあるサイドカーを使っていたのが『あの二人』だとしたら、なかなかにワイルドな一面もあった、ということでしょうか……。
お次はゲーム中では名称が出てくるだけのゲストルームです。いわゆるお客さん用の寝室ですね。この家にお客が来ることがあったのかはちょっと謎なのですけど……。
ベッドが二つとソファがあるので、最大で三人までは寝られます。今のところは実に普通のベッドルームですが、いずれはカミュによって盛大にカスタマイズされてしまいそうな予感がしています。
玄関ホールから階段を登った先にある寝室で、ゲーム中では『女子部屋』として使われています。大きなクイーンサイズのベッドがドーンと真ん中で主張しています。なかなか日本の住宅環境では置けない大きなベッドでうらやましいです。
この部屋には専用のバスルーム(トイレ付き)があり、さらにはバルコニーにも出られるのでかなり快適そうな寝室となっています。
まぁ、ゲームでは逃亡中という状況なので、基本的には昼間でも窓を開けず、大人しくひっそりと使っているんですけどね……。
ここはリビングからそのまま出ることができるテラスです。ゲームでは、ほとんどその存在は出てきませんけどね。そもそもリビングの背景はカメラの角度的にテラスに背を向けていますから、そんな所にテラスがあったのか! という感じかもしれません。
ウッドデッキになっているので、みんなでバーベキューとかしたらさぞかし楽しいことでしょう。まぁ、匂いや煙……そして大騒ぎになって周辺の住人に怪しまれそうですけどね。
ここはガレージの前あたりの庭です。ガレージは扉が特徴的なので、いきなり庭の背景を見せられても、なんとなく位置関係が分かり易いかなと思ってこの場所をチョイスしています。
庭には結構、木々が生い茂っていて、外から敷地内が見えないようになっています。隠れ家としては最適ですが、実際には木を生やしておけばその向こう側の風景を作らなくてもいいという手抜きテクでもあります。
花壇とかプランターがあるので、ガーデニングが楽しめそうで良いですね。
庭には監視カメラが設置されていますが、このカメラ、なんで建物の方を向いているんだろう? といまさら気になってしまいました……。敷地内に外部から不審者が入らないように監視するのであれば、外を向いている方が良い気がするけど……まぁ、きっといくつもある監視カメラの一つなのでしょう。
――と、まあ。これが現時点で公開できる隠れ家の全貌(?)です。全貌と言いつつ全部じゃないですけど、これで打ち止めです。
他の部屋もあるならゲームでも登場させれば良かったのにと思うかもしれませんが、ゲームで登場しなかった部屋に関しては、ゲームの発売後に作ったのでご容赦ください(余裕があればゲームにも入れたかったのですが、とてもそんな余裕なんて無かった! そもそも作る予定もなかったのですけど)。
でもせっかく作ったので、ちょっと前にSNS(X)のホワイトデーイベントで、こっそり登場させたりしています。気になる方はハッシュタグ「#デスペラホワイトデー」で検索してみてください。すっかり季節外れですが、彼らのゆるい日常を垣間見ることができますよ。
さてさて。今回のテーマは、完全に森田が書きたかった事を書いただけなので、果たして楽しんでもらえたのかはかなり不安なのですが……いや、まぁ、それはいつも同じなのかもしれませんけど、乙女ゲームの紹介ブログでこんなに背景の事を語るディレクターもあまりいないと思いますので、それはそれで良い体験をしたと思ってあきらめてもらえれば幸いです。
そろそろネタも尽きつつあるので、次回は何をお届けするのかはまったく未定です……なにが良いでしょう? まぁ、ご意見をもらってもその通りの文章が書けるほど器用な人間ではないのですが、次回こそはコンパクトで簡潔な文章を心がけようと思います。
では、今回はここで。
お疲れ様でした!
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