D3Pオトメ部

2025.12.25 Thu 17:00

【特別編】『DesperaDrops/デスペラドロップス』2周年記念 書き下ろしショートストーリー(後編)

 
メリークリスマス! 皆さま、いかがお過ごしでしょうか?
前回は2周年記念にも関わらず、ショートストーリーが完結しないという失態を演じた森田が、サンタクロース気取りで恥ずかしげもなく再登場です。
 
という事で、無駄な前口上は抜きにして、早速ショートストーリー「共鳴」の後編をお届けします。
どうぞ、お楽しみください。
 
※このショートストーリーは前回の続きになっています。
前編のストーリーはこちら
 
※このショートストーリーは『真相ルート』クリア後の内容となっています。若干のネタバレが含まれますので、ぜひ『真相ルート』をプレイ後にお楽しみください。
※『真相ルート』への到達方法はこちら(攻略記事)
 

デスペラドロップス 二周年記念ショートストーリー

作:森田直樹 監修:吉村りりか
 

【共鳴】後編

 
 ――そして、ついに迎えた12月25日。時刻は午後3時過ぎ。
 私たち7人はローマにある音楽サロン「サローネ・ディ・ムジカ・ビアンカ」の控室にいた。私たちをここまで運んできてくれたカルロスさんはいない。彼は通常の客に紛れて客席からフォローする役割になっているからだ。
 ここは一般には開放されていない会員制の高級サロンということで、警備の方も想像以上に厳重だった。出演者用の出入り口にもセキュリティゲートが設置されており、入場時にはボディチェックを受けただけでなく、スマートフォン等の通信機器も預けることになった。ここまでは事前に聞いていた情報通りだ。
 利用する客層が政治家や高官、超富裕層といった上流階級の人たちであることを考えたらこれくらいの危機管理は当たり前なのだろう。
 入場時にサリィが持っていたノートパソコンを取り上げられそうになるというひと悶着があったものの、演奏に必要な機材だとハミエルさんが押し切って何とか事なきを得た。
 それから私たちは到着早々に控室へと押し込まれ、トイレやリハーサル時以外の勝手な行動は固く禁じられている。
「――大丈夫、この部屋に盗聴器や隠しカメラはなさそうだよ」
 早速ノートパソコンでセキュリティを調べていたサリィの報告で緊張していた空気が緩む。
「で、これが、カルロスが事前に隠してたっていうインカムだね」
 ラミー君が家具の隙間に隠されていた緊急連絡用のインカムを見つけ出すと、それぞれに配っていく。私も受け取ったそれを耳につけた。
 大丈夫。ここまでは予定通りで何も問題はない。いよいよ本番だ。
 今日までの一ヶ月の間、皆慣れない楽器の練習に取り組み、なんとか形になったのは数日前の事だった。とはいえ、あくまでなんとか形になっただけであって、プロのミュージシャンのように臨機応変に演奏が出来るわけではない。不測の事態に対応できるかどうかは不安があった。
 それはもちろん、ボーカルを担当する私自身を含めてだ。
 上手くできるだろうか……?
 緊張で爪先まで冷たくなってしまった手をさすっていると、後ろからハミエルさんに声を掛けられた。
「今からそんな不安そうな顔してどうする。本番までまだ3時間もあるんだぜ? プロらしく堂々と振る舞えばいいんだよ」
「は、はい――!」
 ハミエルさんの方を振り返って思わず固まってしまう。
 そこにいたのはいつもの見慣れた姿の彼ではなく、いわゆるマッシュルームカットという、随分とこざっぱりとした髪型の男性だったからである。
「おい、こら。今、笑っただろ?」
「わ、笑ってませんよ……ただ、あまりに爽やかすぎて戸惑ってます」
「おいおい。俺はいつだって爽やかだろ? 隠れ家からこの格好をしてるんだから、いい加減に慣れろよ」
 ハミエルさんはそう言うが、正直なかなか慣れるものでもない。あまりにも普段と雰囲気が違いすぎる。
「まったくカルロスのやつ、完全に俺たちで遊んでるだけじゃないのか?」
 ハミエルさんは肩をすくめると仲間の方を見やる。
 そう。仲間たちは皆、それぞれが変装を施しているのだ。
 ほんの数ヶ月前までヨーロッパ中を騒がせた逃亡者としてメディアに露出していた私たちである。その正体を隠すためにカルロスさんが用意した変装道具だった。
 服装の方は皆、揃いのブラックスーツで決まっているのだけど、変装の方が色々と問題だった。
「正直、こういう服って好きじゃないんだよなー。すっげー動きにくいんだけど」
 窮屈そうに伸びをするラミー君。確かにいつもスポーティな服装をしているラミー君がスーツを着ているなんてものすごい違和感がある。
 でも、それ以上に違和感があるのはそのヘアスタイルだ。彼は鮮やかな緑色のアフロヘアのウィッグを被っていたのだから。かなり派手である。
「っていうか、ラミーくんのその頭、超ウケるんだけど!」
 そう言って笑うサリィは、フリルがあしらわれた黒いドレススーツを上品に身に纏い、いつもは両サイドで縛っているおさげをトップにまとめていて随分と大人っぽい雰囲気に変身していた。喋らなければどこぞのセレブなご令嬢といった姿に見えなくもないが、ハートの形をしたピンク色のサングラスがかなり主張している。こちらも派手だった。
「まぁ、サリィはどんな服でも髪型でもバッチリだけど、ラミーくんの頭、どう見ても爆発してるし!」
「いや、この髪型かっこいいだろ? てか、変なのはボクよりもアッシュの兄貴だから」
「チッ。この髪……超、うぜぇ」
 アッシュさんはといえば、胸元まであるロングヘアのウィッグで顔の半分が隠れてしまっていた。垂らされた長い前髪の間から、鋭い眼光が覗いている。
「いえいえ、アッシュ君のヴィジュアルはかなり決まっていると思いますよ! なんといいますか、悪の組織の四天王の一人といった怪しい雰囲気です!」
 そう言うカミュさんに至っては、普段はまとめている髪を思い切り逆立ててヘアスプレーでツンツンに固めた、かなり攻撃的なヘアスタイルをしていた。
 いつも掛けているメガネを外した上に、顔半分を隠すような黒いマスクを付けているため、普段のカミュさんの上品さは面影もなかった。
 申し訳ないけれど、正直、かなりの危険人物に見えてしまう。
「っていうかカミュ、すっげー目つき悪くね? ちょっと怖いんだけど」
「いやぁ、メガネを外してしまうと周囲があまり良く見えないので、どうしても目を細めてしまうんですよねぇ……誤算でした」
「おいおい。そんなんで演奏は大丈夫なのかよ?」
「ああ、はい。演奏に関しては目を瞑っていても大丈夫なので問題はないのですが、足元がちょっと怪しいかもしれませんね……」
 それはそれで十分に問題ありそうだった。
「だが、この変装なら流石に例の逃亡者だって気付かれる心配はないだろうぜ。いったいどんなコンセプトのバンドだよとは思うけどな」
「見事にみんなバラバラですからね。しかし、なんでまたこんな派手な格好なのでしょうか?」
 特に派手な見た目なカミュさんが不思議そうに言う。
「こういう派手な格好をしていると、目撃者の記憶ってのは目立つ部分に意識が集中しちまうからな。例えば、緑色のアフロだったり、ハートのサングラスは覚えていても、細かい顔の特徴までは思い出せなかったりするのさ」
「はぁー、なるほど……」
 ハミエルさんの説明にカミュさんが感心する。私もなるほどと納得してしまった。
「……確かに一人、特にスゴイのがいるもんな」
 ラミー君が笑いを噛み殺すような表情で部屋の隅を見やる。
 そこにいるのはサックスを抱えたジブさんだった。
「いや、ジブの旦那についてはスルーしようとした俺の気遣いだぜ?」
 そのジブさんはといえば、ドレッドヘアというのだろうか? 細い髪の束が何本も胸元辺りまで垂れた、かなり特徴的な髪型をしていた。
 しかも口元は完全に髭で覆われており、背の高さと体つきも相まって、かなり威圧感がある風貌となっている。
「パパさんは……ちょっとヤバいよね」
「はい、そうですね。悪い方の意味でヤバいです」
「てか、普通にいつもよりも凶悪な犯罪者ヅラじゃね? 変装の意味ないじゃん」
「どう見ても薬の売人だろ。よくこの店に入れたな」
 アッシュさんにまで言われてしまうジブさんだった。
「そんなに変だろうか? こういうヘアスタイルは初めてだが、そんなに悪くないと思っていたのだが……」
「え、ウソ! もしかしてパパさん的にはアリだったの? ワイルド系に目覚めちゃったとか?」
「頼むからいい歳して変な気は起こさないでくれよ。今後の俺たちの活動に支障がでたらかなわないからな」
「で、でも……この変装ならばお客さんたちに私たちが逃亡者であることはバレなそうですよね? ここに通してくれた係の人にも特に不審がられませんでしたし」
 ジブさんが可哀想になって、なんとなく助け舟を出してしまう。
「まぁ。こんな派手な逃亡者はそうそういませんからね……別の意味で不審がられてはいたようですが」
「ああ。ここまでくると変装というよりも仮装だぜ」
 ハミエルさんの言う通り、私たちの姿はかなり仮装じみていた。
 そして、それはもちろん私も例外ではなく……。
「それにしても、化けると言えば、姉ちゃんもだよなー」
 ラミーくんが手にしたドラムスティックをクルクルと器用に回しながらこちらを見る。
 あまり見られると、なんというか恥ずかしい。
 私はといえば、一人だけ純白のドレス姿で、胸元には例の白い百合のアーティフィシャルフラワーを付けており、黒一色のメンバーの中では明らかに目立ってしまっているのだ。
 髪は腰まで届くロングヘアのウィッグを付け、メイクも普段よりも派手目にしているし、本番ではベール風のヘッドドレスを付けて顔が隠れるから、客に正体がバレるということはないだろう。ただ、こんなに長い髪型にするのは慣れていないので、正直、かなり動きづらかった。アッシュさんの気持ちがちょっと分かる。
「うんうん。やっぱりお姉ちゃんは白い服が似合うよねー。そういう格好していると、花嫁さんみたいだよー」
「あ、分かる! いかにも結婚式って感じだよな! それ!」
 サリィやラミー君が囃し立てるようにそんなことを言う。改めて言われると自分でもそんな気がしてきて、より一層恥ずかしさが増してくる。
「は、花嫁……!」
 何故かアッシュさんまで花嫁という言葉にひどく反応していた。
「だがまぁ、けっこう似合ってるんじゃないのか? そうやって大人しくしてれば普通のお嬢さんに見えるぜ?」
「わ、私は普通ですから! ハミエルさん、からかわないでください」
「でも、確かに今日の曲のイメージにはピッタリだと思いますけどね……花嫁姿は」
 カミュさんが言う通り、私が歌う曲の歌詞は、結婚式を迎えた娘が、家族への思いを綴ったものだった。まぁ、それにしては随分と激しいロック調の曲ではあるのだけれど。
 気持ちを落ち着かせるように歌詞の内容を頭の中で反芻していると、不意に控室の扉がノックされ、私たちの雑談は中断された。
「――失礼します」
 一礼しながら入ってきたのはこの音楽サロンのスタッフの男性だった。
「実は今更のご確認で大変恐縮なのですが、皆様のバンドの名前をお伺いしておりませんでして……」
 男性は若干、申し訳なさそう切り出す。確かに常識的に考えて本日ステージに立つバンドの名前をスタッフが知らないと言うのはおかしな話だろう。
 この控室の入り口にも『特別ゲストバンド様』といった名札が案内されていただけだった。でも、私たち即席バンドにバンド名なんてあるはずがないからそんなものだと思っていたのだけど……。
「皆様のマネージャーであるフランク・カサノヴァ様によりますと、この日のために特別に結成されたバンドであるため、バンド名は当日にお伝えすると伺っておりまして……」
 フランク・カサノヴァという懐かしい名前を聞いて、皆の視線が自ずとハミエルさんに注がれる。
 ハミエルさんは「俺じゃない」と言わん素振りで肩をすくめて見せた。
 おそらくカルロスさんが私たちのバンドをここのステージに立たせるために使用したマネージャーとしての偽名なのだろう。
 一体どんな手段を使ったのか分からないけれど、私たち無名のバンドを、こんな格式がありそうな音楽サロンのステージに立たせるという手腕は流石だと思う。でも、バンド名を当日告げるという重要な情報はぜひとも事前に共有しておいて欲しかった。
「チッ。フランク・カサノヴァ……相変わらず適当な野郎だ」
 ロングヘアにさせられた恨みなのか、アッシュさんが憎々しげに呟く。
「あの、それでバンド名は……?」
 スタッフの男性は、私の方に向き直り尋ねてくる。一人だけ白い服なので目立ってしまったのかもしれない。
 どうしよう。そんな事を突然聞かれても何も考えていないのに。
「ああ、バンド名ですか……それはもちろん、愛の――!」
 嬉々として声を上げようとするカミュさんを、アッシュさんがすかさず抑え込み、なんとかしろという視線をこちらに投げかけてくる。
 流石にここでカミュさんの通称でもある『愛の地球戦士』の名称を使わせるわけにはいかなかった。報道でもカミュさんの罪状を説明する際に幾度となく使われていたから、そこから正体がバレないとも限らないのだ。
「せ、セブンドロップスです!」
 咄嗟に出たのは私たちチームのコードネームだった。
「愛の……セブンドロップスですか? 随分と変わったバンド名ですね」
「は、はい! 私たち、見ての通り変わってるんです!」
 こうなってしまってはこの名前で押し切るしかなかった。見た目が変わっているのが幸いしたと思いたい。
 思わず私たちの本来のコードネームを名乗ってしまったけど大丈夫だろうか?
 しかも『愛のセブンドロップス』というおかしな名前になってしまって皆に申し訳ない気持ちになるのだった……。
 
 * * * * *
 
 それからステージでの音出しやリハーサルといった準備を慌ただしく進めていると、あっという間に18時近くになってしまった。
「――愛のセブンドロップスさん、まもなく出番です。ご用意をお願いします」
 先程のスタッフに呼ばれていよいよ私たちがステージに上がる時間となった。
 私たちの出番は18時のオープニング時に1曲だけというかなり特殊なものだった。そもそも一曲しか練習していないのだから仕方がないのだけれど、サロン側としても異例のオープニング用のスペシャルゲストという扱いになっているらしい。それ以降は本物のバンドやアーティストによるクラシックやジャズが演奏されると聞いている。
 ステージに上がるとリハーサル時に確認していた通り、広い客席フロアには10組ほどのテーブル席が余裕を持って配置されており、壁際には仕切りで区切られたボックス席がいくつかあるのが見える。
 それぞれの座席には身なりの良さそうな客が着席しており、ワインや食事などを楽しみながら歓談している様子だった。この中のどこかにカルロスさんも紛れているはずだ。
 ターゲットはステージ正面のボックス席にいる青いスーツの男性とのことだったが、ボックス席には衝立があり、ここからでは姿は確認できなかった。
 後ろを振り返り準備中の仲間の姿を見る。ステージの照明の下で見ると、彼らの奇抜な扮装も、薄暗い明かりでトーンダウンして見えて、それっぽく一体感を感じられるような気がする。
 とはいえ、この格式ありそうな音楽サロンではかなり異彩を放っているのだけど……。
 ――やがて時間となり、演奏が始まる。
 そして、そこからは本当にあっという間の出来事だった。
 私たちのバンド演奏は奇跡的にも大きな失敗もなく滞りなく進んでいた。
 流石は本番に強い仲間たちだけあって、大きなミスもなく、曲は一番、二番と続き、いまはラストのサビに向けての長めの間奏部分に差し掛かっていた。
 正直、無我夢中だったので私自身の歌がどうだったのかは自分では分からないけれど、少なくとも歌詞を忘れたり間違えたりするようなミスはなかったはずだ。
 大丈夫。ここまではうまくやれている。
 でも、ここからが本番なのだ。
 この間奏の間に私がステージを下りてターゲットまで接近し、カルロスさんから託された発信機入りの造花を手渡す。それからステージに戻り、ラストのサビを歌い上げて退場する流れとなっている。つまり、ここからは私が一人でなんとかしなければならない。このミッションの成否を私が背負っている事になるのだ。
 覚悟を決めて移動を開始しようとした時だった。
『――ちょっと問題発生だ。指示するまで演奏を引き伸ばしてくれ』
 突然、耳につけたインカムからカルロスさんの声が聞こえてくる。
 不測の事態に備えての非常用の連絡手段だったが、まさか演奏中に連絡が入るのは想定外だった。予定外の出来事に、皆の演奏が一瞬大きく乱れてしまうが何とかすぐに立て直す。
 演奏は止まらなかったものの、このまま間奏を続けていれば、あとはラストのサビで曲は終わってしまう。
 どうしよう……。なんとかして時間を稼がなくては。
 かといって演奏中のこの状況で仲間に相談することは不可能だった。
 私が、自分の判断でこの状況をどうにかするしかない。――だったら出来ることは一つしかなかった。
 きっと皆になら伝わるはず……!
 そう信じて私はマイクを握りしめる。
「――ここで私たちのバンド、愛のセブンドロップスのメンバーを紹介します!」
 私の突然の宣言に、仲間たちが驚いたような表情を見せる。だが、私が何をしようとしているのかはすぐに理解してくれたらしい。
 皆には負担になってしまって申し訳ないけれど、間奏部分を引き伸ばして曲の時間を稼ぐにはこの方法しか思いつかなかった。一曲しか演奏しないゲストバンドがメンバー紹介というのは少し不自然かもしれないけど、この際仕方ないだろう。
 問題なのはその順番なのだけど……こんな時に一番手を担当してもらうのは抜群の演奏力を持つカミュさんが適任だと思えた。
 私が視線を送ると、カミュさんはそれだけで全てを理解してくれたのか、小さく頷いて不敵な笑みを見せる。
 不安がないと言えば嘘になるが、それよりも圧倒的な信頼感が勝っていた。
「バイオリン――ブライトゴールド!」
 さすがに本名では紹介できるはずもなく、いつぞやのミッションで使用したコードネームでの紹介となってしまった。
 でも、それがかえってカミュさんのやる気に火を付けてしまったようで、彼のバイオリンが突如激しい旋律を奏で出す。
 それはクラシカルなメロディを超高速な速弾きで紡ぎ出す圧倒的なテクニックだった。
 アヴェ・マリア。パッヘルベルのカノン。耳に馴染みのある旋律を大胆にアレンジした演奏はなかなかに圧巻だった。雰囲気的にもクリスマスっぽいと言えなくもない選曲なのは流石のカミュさんだと思う。
 でも、一人目のメンバー紹介でハードルが上がってしまったかもしれない。
 そんなことを考えていると……次第に演奏の様子が変わってきて、どこかで聞き覚えがあるメロディではあるけれど、明らかにクラシックとは異なる旋律が奏でられていた。
 この曲、どこかで聞いたことあるけど……あれ?
 これっていつもカミュさんがリビングのテレビで見ているアニメのテーマ曲なのではないだろうか?
 確か日本の古いアニメで、ロボットが戦うような内容だったはずだ。
 カミュさんの超絶技法的な演奏スキルに観客は感嘆の溜息を漏らしているけれど……すみません、これアニメの曲なんです。
 どうやらそのことに他のメンバーも気づいたらしく、そろそろ次に進めろと言わんばかりのプレッシャーを私に投げつけてくる。
 確かに、このままではカミュさんのワンマンライブになってしまう。それもかなり濃い目の選曲の。
 カミュさんの独奏が一区切りついたタイミングで、すかさず次のメンバー紹介に移る。
「続いて、ギター――ターコイズブルー!」
 二番手はハミエルさんだ。基本的に器用でなんでもこなす彼ならばカミュさんの超絶プレイの後でも大丈夫だろう。
 口では皮肉や文句を言いながらも、彼がこういった状況では決して手を抜かないことを私は知っている。
 ハミエルさんは指名されると、皮肉げに口元を歪めながらもギターを爪弾き始めた。
 それはまさに情熱的なフラメンコの旋律。以前にフラメンコなら弾けるような事を言っていたが、どうやら本当だったらしい。
 確か詐欺の一環だったらしいけど……どんな詐欺行為を行なったのかは怖くてまだ聞けていなかった。
 カミュさんの演奏技術に比べれば確かに劣るのかもしれないけれど、この場所、この状況で演奏されるフラメンコのインパクトは凄まじく、客席では体を揺らせてリズムをとっている人も見受けられた。予想外に盛り上がってくれているらしい。
 カミュさん、ハミエルさんが自分の得意な演奏を見せてくれたことで、こんな状況に慣れていない他のメンバーにも伝わったんじゃないかと思う。
 とにかく好きに楽しんで音を出せばいいということが。
「ベース――アッシュグレイ!」
 アッシュさんは当たり前だけど楽器の演奏には慣れていない初心者である。
 私が紹介しても特に演奏に変化は無く、黙々とベースでリズムを刻み続けている。
 余計なことをすればミスするかもしれないと本人が一番分かっているのだろう。
 よく見ると口元が演奏に合わせて「F、G、E、A……」と小さく動いている。
 練習通りの指の動きをひたすら繰り返しているその姿は、表情の見えない髪型も相まって、鬼気迫る迫力を放っていた。そして、派手なアドリブもアレンジもないその淡々とした演奏は、実にアッシュさんらしい堅実さを表現している。
 私の視線に気づいたアッシュさんが口元だけで小さく笑うと、最後に演奏のスピードを一気に加速させる。
 アッシュさんなりに盛り上げてくれようとしたのだろう。だいぶ音が乱れたが、そんなことはまるで気にならなかった。
「キーボード――チェリーピンク!」
 私が指差すと、サリィは待ってましたと言わんばかりに笑顔でキーボードに指を滑らせる。
 その瞬間、派手なシンセサイザーのメロディが幾重にも重なって洪水のように溢れ出してきた。
 クリスマスらしい定番なメロディや、聖歌隊風のコーラス、ポップな電子音が重なって、パレードのような大騒ぎだった。
 一台のキーボードをちょっと操作しただけでこれだけの演奏になるとは思えないから、おそらく横に置いてあるノートパソコンでなんらかの処理をしているのだろう。それを証拠に、サリィの指は鍵盤を順番に一つずつ押しているだけだったが、本人はノリノリだった。
 どことなく日本のポップスを思わせる、実にサリィらしい派手で可愛らしいパフォーマンスだと思う。
 正直、この時点で私たちはいったいどんな方向性の音楽を目指しているのか分からない謎のバンドになってしまっているけれど、客席を見るとそれなりに楽しんでくれているようなので一安心する。
 多分、普段はクラシックやオペラといった正統派の古典音楽しか耳にしないような上流階級の人たちが多そうだから、こういった賑やかな音楽が新鮮なのかもしれない。
「サックス――ワインレッド!」
 続いてジブさんを指名する。この一ヶ月間、誰よりも真剣に練習をしていたのを私は知っている。
 最初は音を出すことも困難だったのに、サリィが見つけてくれた動画を見ながら黙々と練習を続けた結果、見違えるように上達したのだ。
 流石にアドリブで演奏できる程までに熟練してはいないけれども、この曲中で覚えたフレーズを続けて演奏することで、一連のソロパートのように聴かせることに成功していた。日々の努力を確実に積み重ねた、実にジブさんらしい独奏だった。
 それに、あの体格にドレッドヘアというインパクトのある風体は、まるで一流のサックス奏者のような貫禄を放っている。そのおかげだろう。多少の演奏ミスでさえ、まるでそういう演奏であるかのような不思議な説得力が感じられるのだった。
「ドラムス――ライムグリーン!」
 そして最後はラミー君。さっきから何かやりたそうにそわそわしていたのは気づいていたけれど、彼には最後に盛り上げてもらおうと思っていたのだ。
 正直に言えば、カルロスさんの指示がいつくるか分からない状況で、最後のラミー君に繋いでしまうのは危険な気もしたが、楽器演奏に慣れていないメンバーにあまり負担をかけられないのも事実だった。その点、ラミー君なら――
 指名されるや否や、ラミー君は演奏しながらおもむろに立ち上がった。そして、ドラムスティックをクルクルと回転させると、立ったままでドラムの演奏を開始する。これは座りっぱなしの練習に飽きてきたラミー君が編み出した演奏方法で、調べてみると『スタンディング・ドラム』という奏法に近いことが分かった。
 ただ、ラミー君の場合は持ち前の運動神経と身軽さを生かして、ジャンプしたり、バク宙をしたりしながら、ドラムやシンバルを打ち鳴らすという、かなりアクロバティックな演奏となっているのが特徴なのだ。その結果、リズムが取りづらくバンド演奏には不向きなために使用禁止にされてしまったのだけれど、この状況でこれ以上に頼もしいパフォーマンスはないだろう。
 実際、客席の人たちも、突如始まった大道芸のようなラミー君の演奏に目を奪われている。
 あんなに激しく動いて、アフロヘアのウィッグが取れないかが心配だけど、当のラミー君といえば、椅子の上によじ登って、足でドラムを演奏するという、かなりお行儀の悪い演奏で拍手喝采を受けていた。
 この時点で他のメンバーはラミー君の演奏に合わせることを諦めて、演奏を止めてしまっているのだけど、客席の方はそんなことは気にしていない様子だ。
 そして、ラミー君の曲芸的ドラム演奏が最高潮に達した時、再びカルロスさんからの通信が入る。
『――オーケイ、こっちは大丈夫だ。最終段階へ進めてくれ』
 それを聞いた仲間達も演奏を再開し、バラバラだった音が徐々に揃っていく。
 こんな時、演奏に慣れたカミュさんや、状況判断に優れたハミエルさんがうまくリードして曲を立て直してくれるのが心強い。
 ラミー君も大暴れして満足したのか、座ってドラムを叩き始め、曲が本来の間奏部分のメロディに戻り一安心する。
 さあ、いよいよだ。
「そしてボーカルは私――ミルキーホワイトです!」
 手を振りながら客席をぐるりと見回して、ターゲットのいるボックス席の方へと視線を向ける。さあ、行こう。
 仲間達のこの頑張りに応えるためにも、私は客席へと足を踏み出す。
 このバンド演奏の本来の目的である、ターゲットとなる人物に白い百合の造花を手渡す為に。
 なんとしてでもこのミッションを成功させる。それが、私がここにいる理由なのだから。
 薄暗い客席の通路を、不自然にならないように周囲に微笑みを振り向きながら、ゆっくりと進んでいく。
 ハミエルさんから言われた「プロらしく堂々と振る舞え」という言葉を心に反芻しながら、自分はプロのミュージシャンだと言い聞かせて悠然と客席の間を歩いていく。
 観客の視線が移動する私を追いかけているのを意識する。失敗は許されない。
 そして、いよいよターゲットのいるボックス席に辿り着き、そこにいる人物を見た瞬間――私は呆然と立ち尽くしてしまった。
 だって……なぜなら。
 そこにいたのは、もう二度と会うことはないはずの人で……。
 こんな場所にいるはずのない人で……。
 それなのに、決して見間違うはずのないその人は……。
 ――お父さん!
 その言葉を飲み込むことができたのは奇跡だったと思う。
 そう。カルロスさんの言う今回のターゲットというのは、私の父だったのだ。
 日本にいるはずの父が、どうしてこんなところにいるのか?
 いったい何が起こっているのか?
 突然の出来事に理解が追いつかず頭が真っ白になる。
 ただ一つ、分かることがあるとすれば、カルロスさんはこの事実を知っていたということだ。
 だが、そんなこと今はどうでもよかった。
 目の前にもう会えないと思っていた父がいる。
 全て捨てたと覚悟した自分自身の過去がある。
 手を伸ばせばすぐそこに、ずっと戻りたいと思っていた平穏な日常があるのだ。
 そのはずなのに……。
 どうしてだろう。この時、私の心は無風の湖面のごとく穏やかだった。
 遠くから聞こえてくる音が、私の心を落ち着かせてくれているのが分かる。
 それは仲間たちの奏でる、私たちの音楽だった。
 背後で演奏する彼らの姿は見えないのに、すぐ隣にいてくれるように感じられて。
 ――ああ、そうか。
 もう、私の帰る場所はあちら側なのだということを、改めて思い知らされたのだ。
 そして、その事実に少しだけ安心している自分がいる。
 よかった。そう思えた。
 だから大丈夫だ。私は最後までやり切れる。
 震える手で胸元の白い百合の花を外し、前へと差し出す。
 目の前にいる青いスーツの男性に。
 このミッションのターゲットに。
 私はプロらしく振る舞うのだ。
「――本日は、私たちの演奏をお聞きいただき、ありがとうございました……」
 百合の花を手渡す瞬間、一瞬だけ私の手が父の手に触れてしまった。
 自分の力を自覚してから初めて触れた父の手は、想像していた以上に温かく……そして、
 
 ――花嫁姿はもう見れないと思っていたよ。
 
 そんな思いが父の手の温もりと一緒に伝わってくる。
 その瞬間、私は再び凍りついたよう動けなくなってしまった。
 やはり、もう父には私の正体がバレているのだ。
 当たり前だ。世界にたった一人の父親と娘なのだから。
 どんなに髪型を変えても、メイクをしてベールで顔を隠したからといって騙し通せるはずがなかったのだ。
 それでも、それを認める訳にはいかなかった。
 認めてしまえば、きっと私は本当に大切な物を今度こそ失ってしまうから……。
 戸惑う私を現実に引き戻したのは、やはり仲間達の演奏だった。
 一層大きくなった音の高まりが、押し寄せ引き戻す波のように私の心をあちら側へ連れ戻そうとしている。
 まるで「早くこっちに帰ってこい」と言わんばかりの温かい音が私の心を引き寄せる。
 だから、もう、行かなきゃ。
「……メリークリスマス」
 囁くようにそう告げると背を向けて、ステージを目指して歩き出す。
 後ろ髪を引かれなかったと言えばもちろん嘘になる。
 でも、大丈夫だ。だってこの長い後ろ髪はフェイクなのだから。
 演奏が終われば脱ぎ捨ててしまうことの出来る、今日限りの偽りの後ろ髪なのだから。
 いくら引かれようとも気にならない。
 ステージの前まで戻ると上から2本の腕が差し出されていた。
 いつの間にかステージの最前面まで移動していたアッシュさんとハミエルさんが演奏を止めて、私に手を差し出してくれている。
 その手を掴むことに躊躇いはなかった。
 穏やかな温もりと感情が、私がここにいて良いという確証を与えてくれる。
 二人の力強い腕でステージの上に引き上げられた私を、仲間達の優しい微笑みが迎え入れてくれた。ここが自分の居場所だという現実に涙が出そうになる。
 でも、今は感傷に浸っている場合ではない。
 この想いを、気持ちを歌に乗せて、客席に届けるのが今の私の役目なのだから。
 そこに想いを伝えたい人がいるから。
 だから私は歌うのだ。
 人前で歌うことを恥ずかしがっていた自分が恥ずかしくなるくらいに堂々と。
 過去に別れを告げ、新しい道を歩き出すこの歌を。
 大切な仲間たちが奏でる最高の演奏に合わせて――
 
 * * * * *
 
 それから1時間後。
 私たちはカルロスさんが運転する大型のバンでローマ市内を走っていた。
「いやぁ、大きなトラブルも無く、無事に終わってくれてよかったよ。お疲れさん」
 演奏機材も一緒に積み込み、車をスタートさせるとカルロスさんは人ごとのようにそんなことを言った。
「トラブルは無かった……ねぇ。じゃあ、いったい何だったんだよ、あの演奏を引き伸ばせって指示は」
 早速ハミエルさんが皮肉を投げつける。
「ああ、あれかい? 実は君たちの演奏中に、突然ターゲットが席を外してしまってね。電話でもしに行ったのか、あるいはトイレだったのか……とにかくターゲットが席にいなけりゃ話にならないだろ?」
 そんな理由だったらしい。確かに今回のミッションはターゲットにあの百合の花を渡すことが目的だったのだから、席に戻ってくるまで演奏を引き伸ばす必要があったのは仕方ないだろう。
「なるほど、状況は理解した。……とは言え、肝を冷やしたのは確かだった。我々は演奏のプロじゃないんだ。急にアドリブを求められても困る」
「そうだよなー。カミュがいきなりアニメの曲を演奏した時は、どうなることかと思ったしさ!」
「ええ? ダメでしたか? クリスマスっぽい選曲をしたつもりなのですが……」
「いや、どこがだよ? カミュがあのまま歌い出すんじゃないかって、ボクはハラハラしてたからね!」
「はっはっは。だが君たちのおかげで、ターゲットの監視はバッチリだ。盗聴器もこのとおり機能している――ほらな」
 カルロスさんがカーオーディオのスイッチを入れると何やら人の話し声が聞こえてくる。
『――それにしてもミスター。何故このような場所に来たいなどと……?』
『ああ、このサロンは死別した妻と出会った思い出の場所でしてね。ここに来たら、また奇跡が起こるのではないかと思ったのですよ』
『……奇跡、ですか? 果たしてそれは起こりましたかな?』
『どうでしょう……起こったのではないかと、私は思いたいですね――』
 懐かしい男性の声がスピーカーから聞こえてくる。会話の様子を聞く限り、危険な状況に置かれていないことに安心したところで、カルロスさんにスイッチを切られてしまった。
「GPSも機能しているし、これで彼が無事にイタリアを出るまでこちら側で動向をモニターすることができるだろう」
 理由はよく分からないが、カルロスさんは父の身の安全を守るために発信機や盗聴器を仕掛けたという事なのだろう。そのくらいは流石に分かった。
「そっちの仕事に興味はねぇ。あとはアンタが好きにしてくれ」
 アッシュさんが憮然とした口調で言葉をカルロスさんに投げつける。
「いや、でもさ。あの花を捨てられたら終わりじゃね? たまたま受け取った花をいつまでも大事に持ってるなんて思えないんだけどなー」
 ラミー君がもっともな指摘をする。
「いや、それに関しては大丈夫だ。この嬢ちゃんから受け取った物を捨てられるわけないだろ?」
 カルロスさんがバックミラー越しに意味ありげな視線を私に投げつける。
 やはりカルロスさんは全てを知っているのだ。問いただしたいことはいくらでもある。
 でもそれは今じゃない。後できちんと説明をしてもらうつもりだった。
 それにカルロスさんの言う通り、あの百合の花が捨てられることはないだろうという確信が私にもあったから……いや、そう思いたいだけなのかもしれないけれど。
「なるほど、確かに捨てねぇかもな」
 何故かアッシュさんも納得してしまったらしい。
「ああ。でも、ちょっと楽しかったよなー。バンドってのもさ。案外ボク、才能あったりして」
「分かる、分かる。サリィも音楽に目覚めちゃったかも!」
「そうですね。次は正式に『愛の地球楽団』として活動してみたいところです」
 ラミー君、サリィ、カミュさんは今回のバンド活動をすっかり気に入ってしまったようだ。あれだけ自由気ままに演奏できたのだからその気持ちも分からなくはない。
 でもやっぱりというか、カミュさんが考えていたバンド名はそういうものだったんですね……。
「オレは他の音も出せるようになってやる。あとはB、C、Dだ」
 意外にもアッシュさんまで前向きな発言をする。やはり真面目な人なのだ。
「いやいや、俺はゴメンだね。ああいう目立つ仕事は性に合わない」
「私もできることなら遠慮したい。あれなら銃を扱う方が気楽だ」
 ハミエルさんとジブさんは流石に懲りたらしい。私もどちらかと言えばそちらの意見だった。
 確かにバンド演奏自体は終ってみれば楽しかったと思えるけど、人前で歌うというのは、なかなかに大変なことだと思い知ったから。
「そう言うなって。意外なことに君たちの型破りな演奏は割と好評だったんだぜ? 帰り際にサロンの支配人に来年のクリスマスも出演しないかオファーされたし、マネージャーとしては鼻が高いよ。で、どうする? 来年もやるかい?」
「お断りします」
「えー!」
 私が即答すると、サリィたちから不満の声が上がった。
「だったら次はサリィがボーカルやるから、お姉ちゃんはキーボードと交代!」
 なるほど。それならいいかもしれないと思う自分がいたりもするから不思議なものだった。
「――さて、君たちこれからどうする? せっかくのクリスマスだ。ローマで良い感じのコンドミニアムを押さえてあるんだが……」
 気を利かせてくれたのだろう。カルロスさんがそんな提案をしてくれる。
「ありがとうございます。でも――」
 今の私たちには帰るべき場所があるのだから。
「私たちはこのまま家に帰ろうと思います。――みんなでパーティをしなくっちゃですからね」
 今日はクリスマスなのだから。みんな一緒に家で過ごすのが一番ふさわしいはず。
 そう決めると、ずっと着けたままだったの長いウィッグをそっと外した。
 後ろ髪は、もう必要ない。
「やったー! サリィもパーティやりたい! だったらケーキ買ってこ! カルロっち、ローマで一番のケーキ屋さんにレッツゴーだよ」
「それならツィムトシュテルネも必要だ。これは譲れねぇ」
「甘いのもいいけど、やっぱ肉じゃね?」
「肉か……クリスマスならやはりチキンだろうな」
「だったらワインも頼むぜ」
「あの、できればサラダなどもあると……」
「あ、サラダやパスタくらいは作りたいのでスーパーマーケットに寄ってもらっていいですか?」
「おいおい。俺はタクシーかい?」
「はん、似たようなもんだろ?」
「やれやれ、雇用主に対して、ヒドイ扱いだねぇ」
 なんて大騒ぎしながら、私たちは家路についたのであった。
 
(END)
 
はい。以上となります。
一時はどうなる事やらと思っていましたが、無事に完結して一安心している森田です。
 
書き上げたお話にあれこれ補足するのは野暮というものですので、特に何か語るべきことは無いのですが、一つだけ言わせてもらえれば――
今回も、乙女ゲーム感、ゼロですね。
ここまでお付き合いいただいている方にとっては今さらかもしれませんが……。
クリスマスと言えば、恋人同士の一大イベント。もっと甘い二人きりの時間とか、そういった展開を期待していた方には申し訳ありませんが、こういうものだと諦めていただくよりありません。デスペラですし……。
 
何はともあれ、ひと月近く間が空いてしまいましたが、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
 
それでは、少し気が早いですが、皆さまよいお年を。
来年も何らかの形でお会い出来れば幸いです。
 
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