D3Pオトメ部
2024.03.06 Wed 0:00
『DesperaDrops/デスペラドロップス』制作秘話 第一回「企画」
※本記事は Nintendo Switch『DesperaDrops/デスペラドロップス』のネタバレを含みます。未プレイの方はご注意ください。
※制作秘話含むデスペラ関連記事はこちら
初めまして。『DesperaDrops/デスペラドロップス』ディレクターの森田です。
デスペラが発売して早いものでもう4か月。
遅ればせながら先日『無料体験版』も無事に配信できて、だいぶ落ち着いてきたという事もあり、この辺りで開発中の事でも振り返ってみようかなと思い登場した次第です。
僕はレッド・エンタテインメントの一員なのですが、今回はD3パブリッシャーさんのご厚意で、こうしてオトメ部ログにお邪魔させていただいております。
他社さんのブログを書かせてもらうなんて初めての経験ですし、責任重大。
粗相の無いよう頑張ります。
D3P×REDと言えば、以前『百花百狼 ~戦国忍法帖~』でご一緒させてもらったのですけれど、今回は僕も含めてスタッフは一新。さらに僕自身が乙女ゲームを担当するのは初めてという新参者ですから、発売するまではあまり表に出ないようにしようと心がけておりました。
気にしすぎなのかもしれないですが、新規タイトルで、ディレクターが男(しかも知らないオジサン)ということで、発売前に変な先入観を持ってほしくなかったという気持ちがありましたので。
今回「何か書かせてください」と意気込んでお願いしたものの、完全な見切り発車でスタートしてしまった訳なのですが、まずはご挨拶を兼ねて企画立ち上げ時のことなどを振り返ってみようかなと思います。
既に発売もしてユーザーさんの手に委ねられたゲームに対して、作り手があれこれ言うのは無粋かなは思うのですが、こうして文章として残しておくと、後になって読み返して当時を振り返ることができて便利だったりします(それを他社さんのブログでやるなよ、という気はしますけど……)。
とはいえ今回は『乙女ゲーム』。普段ならまず選ばない(というか選べない)ジャンルなのですが、そもそも、どうして乙女ゲームの企画を立てたんだ、僕は?
記憶を遡ると「D3Pさんに乙女ゲームの企画を提案したいので考えてください! 大丈夫、森田さんならできますよ!」と、スタッフに乗せられた気もするけど……結局は(作ったことないから)作ってみたかった、というのが正直なところです。
30年近く、企画やゲーム作りに関わって来て、この歳で新しい事に挑戦できる機会なんて中々ありませんからね。
それにここ最近『レッドといえば乙女ゲーム』というイメージが割と浸透しておりまして、これは大変ありがたいことなのですが、でも僕が乙女ゲームを担当している訳じゃないので、それはそれでちょっと悔しいなと悶々としていた時期でもありました。
いや待てよ、それならいっそ自分でも作ってみようか! という、割と前向きなテンションだったのは確かですね。
そもそも一般向けも女性向けも、キャラクターの作り方やシナリオの楽しませ方に大きな違いがあるとは思えないし、ダメなら企画が通らないだけだし。
それにどうせ僕が作るのなら、『男目線』で作れる乙女ゲームというのもあるかもしれないし。
と言うのも、乙女ゲームって外から見ていると割とお約束ごとがあるような気がしていたんですよね。『乙女ゲームとはこうあるべき』みたいな見えない暗黙のルールがあるように感じられていて。実はそれもどうかなぁ、と思っていたので。
なので今回、乙女ゲーム的なお約束事はあまり意識しないようにしました。
意識していたのは女性のプレイヤーさんが楽しんでくれるゲームであること。
そして、あわよくば男性プレイヤーにも楽しんでもらいたい。
とはいっても乙女ゲームとして世に送り出す以上、乙女ゲームとして認識してもらえなければ本末転倒なので、そういった『乙女ゲームらしさ』についてはD3Pさんやレッドのスタッフに見てもらおうという、プロジェクト開始前から完全に他力本願だったのですが。
なにはともあれまずは企画が無い事には話になりませんから企画作りです。企画書が無い事にはD3Pさんにプレゼンする事もできないですからね。
ちなみに企画の作り方には特別な手法なんてありません。重要なのは明確な『コンセプト』を提示できるかだと思っています。それも出来るだけシンプルな、ひとことで表現できるようなコンセプトが良いです。
企画書で長々とページを使って世界観や設定を説明したところで、そういうのは後からいくらでも作り込む時間がありますから無意味です。最初に必要なのは一言でどんなゲームなのかイメージできる言葉――それが今回は『逃亡劇』でした。
つまり「逃亡劇って面白そうですね」と思ってもらえるかどうか。そこが勝負な訳です。
実は『逃亡劇』っていうのは以前からずっとやりたかったテーマだったのですが、なかなかやる機会が無かったんですよね。一番の理由は僕の芸風に合っていないから、なんですけど。
僕が普段作る企画って、割とユルい雰囲気の内容が多くて、クライムとかサスペンスとかシリアスとか、ついでに愛とか恋とかカッコいい展開とか、そういう要素が欠如しているという致命的な問題を抱えておりまして……
さらにスタッフからは「今回はいつもみたいな下らないギャグとかいいですから」と事前に釘を刺されていましたし……
いや待てよ、そういうカッコいい部分はシナリオライターさんにお任せすればいいのではないか? なんせ今回は乙女ゲームだから僕の苦手な恋愛部分も含めて、いつも以上にシナリオライターさんに助けてもらうのは決定事項だし、よしそれなら大丈夫だ! 逃亡しちゃおう! ということで念願の逃亡劇です。
コンセプトさえ決まってしまえば、無実の逃亡者となった主人公が、同じ護送車に乗り合わせた犯罪者達と一緒に逃亡生活するという大筋は出来たのも同然。
どうして一緒に逃亡生活をするのかって?
僕の好みとして一つの目的に向かって行動する集団(チーム)を描くのが好きだからです。
だから基本的に団体行動です。全員が同じ立ち位置です。
登場するメインキャラが敵味方に入り乱れて多面的に物語を描く……っていうのは僕の作りたい方向性にはあまり無いんですよね。そういう内容にしてしまうと、物語が終わった後に、全員が一緒にいられるかもしれない未来が想像しにくいのであまり好きじゃないのです。
企画段階で主人公が『無実の罪』というのは決まっていました。プレイヤーの分身となる主人公がガチの犯罪者ではさすがにプレイヤーさんも感情移入できないでしょうし、男達との間に最初は埋められないくらいの溝を作りたかったので。それに『無実の主人公』と『本物の犯罪者』という組み合わせの方がドラマも生まれそうじゃないですか。
もちろんこの時点で、主人公がなぜ捕まったのか? とか、どうして一緒に? とか、事件の結末は? とかそういうことは一切考えていません。
ただ、改めて企画書を読み返してみると、主人公の『あの能力』は最初から決めていたようです。思ったよりもちゃんと考えていて、当時の自分を褒めてあげたい気分ですね。
あとは物語の舞台をどこにするかですけど……逃亡劇というくらいだから当然移動します。どうせならロードムービー的に街から街へと次々に移動していく展開がいいよなぁ、と後々の苦労も知らずに気軽に考えていました。
ということで舞台はヨーロッパ。地続きなのにパスポートも不要で他の国に入国することができるっていう状況が今回の逃亡劇というコンセプトにピッタリだし、国ごとに文化や風景も変わって楽しそうですからね。
それに、この企画を立ち上げた当時は、世界的に感染症が猛威を振るっていて外出や旅行にかなり制限が掛かっていたという背景もあり、せめてゲームの中でくらい自由に旅行気分を味わってもらいたい、というそんな思いもありました。
幸いな事にゲームが発売する頃には状況もだいぶ落ち着いてきたのが何よりですが、とはいえ気軽に聖地巡礼してもらえない距離というのはちょっと残念かもしれませんね。
何はともあれ、こうして企画がまとまり、D3Pさんと再びご一緒することとなったのでした。
めでたしめでたし。
……で終わってしまうと、本当にただの思い出話になってしまうのでもう少しお付き合いください。
今回、乙女ゲームを作るにあたって、最初にいくつか僕なりの目標を決めていました。
その目標というのが……
①共通ルートをたっぷりやる
②主人公も音声有りのフルボイス
③全員が活躍する大団円エンドは必須
④主人公の一人称視点にこだわる
他にも細々とはあるのですが、特に意識したのがこの4つです。
①共通ルートをたっぷりやる
共通ルートの長さについてはプレイしてくれた方ならお分かりかもしれませんが、一般的な乙女ゲームに比べると意図的に長くしています。人によっては長すぎと思うかもしれませんし、「このゲーム個別ルートに分岐しないの?」と思われたかもしれません。
あるいは、最初にサイドカーに乗る相手を選ぶ段階で「お、そろそろ個別に分岐か?」と思われたらどうしようかとドキドキしていましたが、まったくそんなことはないのはご存知の通りです。
どうしてこんな構成になっているのかというと、今回は個々のキャラクターとの恋愛の過程と同じくらい『7人がチームとして結束していく過程』を描きたかったからです。
乙女ゲームという性質上、それぞれのキャラクターとの恋愛過程が重要なのは当然なのですが、最終的には全員まとめて愛着を持ってもらいたかったので。
その為にはどうしても物理的に長いシナリオを体験してもらうしかないんですよね。
もちろん『そして数か月が経過した――』みたいに端折る事も出来ますけど、それじゃ意味がないので。
そしてできれば、個別ルートに突入して仲間と離れ離れになった時に「寂しい」と感じて欲しかった。乙女ゲームとはいえ、お気に入りキャラの個別ルートに突入したら、他のキャラはサヨウナラっていうのはなんか悲しいじゃないですか。
もちろん乙女ゲームに限らずキャラ分岐のあるゲームは、個別ルートに入るとどうしても他のキャラクターがあまり登場しなくなるのはまぁ、分かります。だって個別ルートだし。実際、デスペラもそういう構成になっています。
ただ、その時の感情として「二人きりになれた」ではなく「他の仲間がいない」と感じてもらいたかったのです。そして仲間と再会した時に、少しでも「懐かしい」「再会できて良かった」と安心してもらいたいという思いがあったのですが……まぁ、長いですよね。僕はこの構成は気に入っているんですけど。
あ、ちなみに初期のプロット段階では共通ルートはもうちょっと長かったんですけど、さすがにこりゃ長すぎると思い今の形に落ち着きました。
②主人公も音声有りのフルボイス
ノベルゲームで主人公の音声についての考え方は人それぞれだと思いますが、せっかくのフルボイスのゲームだからと、ボイスを聴きながらプレイした時に、めちゃくちゃ盛り上がるシーンにも関わらず、主人公の音声が無い! という状況を作りたくなかったんですよね。
そういうのって、なんだか主人公だけが記号化されているというか、作り手の都合で蚊帳の外みたいな感じがしちゃって寂しいじゃないですか。激しい喧嘩をしているはずなのに主人公にだけ声がないと、せっかくの勢いも削がれてしまいますしね。
もちろん主人公に感情移入したくて音声無しでプレイを楽しみたいという人の気持ちも分かりますので、その部分についてはちゃんと配慮していますし、遊び方を強要するつもりはありません。
でも、主人公はプレイヤーさんの分身であると同時に、一人のキャラクターとしてかけがえのないチームの一員として愛してもらえたら嬉しいな、と思っています。
③全員が活躍する大団円エンドは必須
大団円エンド(ゲーム内では『真相ルート』と呼称しています)については「①共通ルートをたっぷりやる」の延長線上ですけど、個別のキャラルートとは別に、どうしても同じくらいのウェイトで入れたかったルートなのです。
なんせこれは絶対にやる! って企画書の段階から入れていましたからね。
ある意味では誰とも結ばれないという結末なので、乙女ゲーム的には誰得なのかもしれませんが、作り手としての僕にとってのハッピーエンドは、やっぱりこれなんですよね。
もちろん異論はあるでしょうし、それを押し付けるつもりはありませんから安心してください。
ただ、やっぱり最後まで『全員』でっていうのは、僕が作る物としてどうしても外せない要素なんですよね。まぁ、あれを大団円と呼んでいいのかはちょっと自信ないのですが……
④主人公の一人称視点にこだわる
これについては誰も気にしない事かもしれませんが、僕は基本的に主人公の一人称視点というのにこだわりたいタイプなのです。
特にノベル型のゲームの場合、あくまで主人公の目を通して世界を見て、他のキャラクターと関わりあってもらいたいので。だからシナリオも基本的には主人公の一人称だけで表現しています(アップデートで追加したサイドエピソードは除きますが)。
要するに、主人公が見ていない(知らない)事は、プレイヤーにも分からないという作りですね。
これは多分、シナリオライターさんにも負担をかけるのだろうなとは思います。主人公の視点だけでシナリオを書くということは、どうしても主人公では知りえない事件の裏側の事情とか、他人の心情とか、説明しきれない部分が出てきてしまいますからね。
ただ、それを差し引いても僕は主人公の一人称にこだわりたいんですよね。自分でボタンを押さない限り物語が進まないノベルゲームにおいて、それこそが一番物語にのめり込める手法だと思っているので。
だからデスペラには主人公の台詞に表示される顔アイコンもありません。だって、主人公の目には自分自身は映っていないですからね。そこに主人公の顔が見えると、どうしても一歩引いた第三者的な目線で物語を『読んでいる』気持ちになってしまう気がして……まぁ、アレはアレで、あったら色々と表現の幅が広がって便利なのかもしれませんが。
同じような理由でADV画面ではUIもなるべくシンプルにして、余計な物が目に入らないようにしています。多分、昨今の乙女ゲームの中では断トツにシンプルな画面なんじゃないでしょうか? でも、決して手抜きではありません。これも演出です!
……さて、僕が書く文章は内容の薄さのわりに長い(くどい)と言われることが多々あるのですが、実際かなり長くなってしまったかもしれません。とてもキャラクターのことや、シナリオについてなど語りきれそうにありません(ゲストの登場も予定していたのに……)。
ということで、勝手に次回に続きます。
まぁ、タイトルに第一回と書いた時点でそうなる気はしていましたけど。
ということで、D3Pさんに「もう出ていってくれ」と言われない限りは、もうしばらくここに居座るつもりですので、またお会いしましょう。
ではでは。
▼『DesperaDrops/デスペラドロップス』関連ブログ記事一覧はこちら
https://otomeblog.d3p.co.jp/tag/desperadrops/